光電融合とは?AI時代の通信・電力問題を変える次世代技術

光電融合(PEC)の仕組みとAI時代のデータセンターをイメージしたフラットイラスト AI・テクノロジー
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最近、「光電融合」という言葉をニュースやSNSで見かけることが増えたと感じています。NTTのIOWN構想の文脈で語られることが多いですが、2026年に入ってNVIDIAやBroadcomといったAI半導体企業の名前とセットで語られる機会も増えてきました。今回は、この光電融合という技術が何を目指しているのか、私なりに調べたことを整理してみようと思います。

光電融合を一言でいうと

光電融合(Photonics-Electronics Convergence:PEC)とは、コンピューターや通信機器の中で、これまで電気で伝えていたデータを、できるだけ光で伝える方向へ移していく技術のことだと理解しています。

ここで誤解しやすいのが、「コンピューターを全部光で動かす」という話ではないという点です。当面の中心は、計算そのものは引き続き電子回路が担い、データの伝送部分をできるだけ光に置き換えていく、という役割分担になっています。NTTもPECについて、電気で処理していた領域を光へと置き換えていく技術と説明しており、ネットワークからコンピューター内部へと段階的に光の適用範囲を広げていく構想を進めているようです。

なぜ今、光電融合が注目されているのか

背景にあるのは、やはり生成AIとAIデータセンターの急拡大だと感じています。

AIの学習や推論では、大量のGPUやAIアクセラレータを接続し、それらの間で膨大なデータをやり取りします。AI性能が上がるほどGPUの数が増え、GPU同士の通信量が増え、より高速なネットワークが必要になる——という流れの中で、電気配線の消費電力や損失、発熱がボトルネックとして表面化してきました。そこで期待されているのが、光通信・光電融合という技術です。

つまり光電融合は「AIの計算そのものを速くする技術」というより、AIを大規模に動かすための通信・インターコネクト部分のボトルネックを解消する技術、と捉えると分かりやすいと感じています。

光は何を使ってデータを運んでいるのか

PCが扱うデータは0と1のデジタル情報として表現されますが、0や1そのものが「電気」や「光」という物理現象なわけではありません。0/1という情報を、何らかの物理現象の状態に対応させているというイメージです。

電気の場合は、単純化すると低い電圧を0、高い電圧を1に対応させます(実際の高速通信では差動信号や多値変調など、もっと高度な方式が使われています)。

一方、光通信では、光の「強さ」「周波数」「位相」「偏波」といった特徴を使ってデータを運びます。初歩的には「光がある/ない」を0/1に対応させるイメージで十分ですが、現代の高速光通信はそれだけではありません。

  • 強さ:懐中電灯の明るさをイメージすると分かりやすく、弱い光を0、強い光を1に対応させられます。
  • 周波数:波がどれくらい細かく繰り返しているかという特徴です。異なる周波数の光を別々の通信に割り当てれば、1本の光ファイバーで複数のデータを同時にやり取りできます。これが波長分割多重(WDM)と呼ばれる技術の基本的な考え方です。
  • 位相:同じ波の中で、今どの位置にいるかという特徴です。時計の12時・3時・6時・9時のように波の位置を角度で表すイメージで、この違いを利用すれば1回の信号でより多くの情報を表現できます。
  • 偏波:光の波がどの方向に振動しているかという特徴です。縄跳びを縦に振るか横に振るかの違いのようなもので、同じ光ファイバーの中でも振動方向が違えば別々の情報として分けて扱えます。

これらを組み合わせることで、1本の光ファイバーに大量の情報を詰め込むことができる、というのが光通信の強みだと理解しています。

電気信号と光信号を変換する仕組み

送信側の代表的な構成は、レーザーから出た光を、電気信号をもとに光変調器で変化させ、その光を光ファイバーに送り出すというものです。受信側では逆に、光ファイバーから届いた光をフォトダイオードで電気信号に戻し、受信回路で処理します。

高速・長距離になるほど電気配線では損失や消費電力が問題になりやすい一方、光ファイバーは高速・大容量のデータ伝送に向いています。そのため、従来は「ASIC・CPU→電気配線→光トランシーバ→光ファイバー」という構成だったものを、「ASIC・CPU→光エンジン→光ファイバー」のように、光への変換地点をできるだけコンピューター側へ近づけていく方向に進化しているようです。

ASICとは何か

ここで「ASIC(エーシック)」という言葉が出てきたので、少し補足しておきます。ASICは「Application Specific Integrated Circuit」の略で、日本語では「特定用途向け集積回路」と訳されることが多いようです。

パソコンのCPUが「どんな計算にもある程度対応できる万能選手」だとすると、ASICは「特定の作業だけをこなす専門選手」というイメージだと理解しています。用途を絞り込んだ分だけ回路をムダなく設計できるため、同じ作業であればCPUやGPUのような汎用チップよりも高速・省電力で処理できるのが特徴とされています。その代わり、設計した用途以外の仕事には対応できない、という融通の利かなさもあわせ持っています。

光電融合スイッチの文脈でASICが登場するのは、ネットワークスイッチの「通信を高速に処理する」という作業に特化した専用チップとして使われているためのようです。記事内で紹介したBroadcomのスイッチ用ASICも、まさにこの「通信処理専用に設計されたチップ」にあたります。ちなみにNVIDIAのGPUのように「AI計算に強いけれど、ある程度は汎用的にも使える」チップとは、この専用性の高さという点で少し性格が異なる存在だと捉えておくと分かりやすいかもしれません。

シリコンフォトニクスとCPO

シリコンフォトニクスとは何か

この流れを支える基盤技術のひとつが「シリコンフォトニクス」です。半導体製造技術を利用して、シリコン(ケイ素)の基板の上にレーザーや光変調器、光の通り道となる導波路といった光の部品を作り込む技術のことだと理解しています。

なぜわざわざシリコンを使うのかというと、シリコンはすでにCPUやメモリなど、あらゆる半導体チップの製造で長年使われてきた素材だからです。半導体工場の既存の生産ラインやノウハウをそのまま活かしながら、光の部品を作れるという点が大きな利点とされています。専用の特殊な工程をゼロから作るのではなく、これまで電子回路を作ってきた延長線上で光の回路も作れる、というイメージを持つと分かりやすいかもしれません。

その結果として、光の部品を電子回路と同じように小型化・大量生産しやすくなり、コストも下げやすくなる、というのがシリコンフォトニクスが重視される理由のようです。NTTもシリコンフォトニクスを活用した光電融合デバイスを開発し、光トランシーバの小型化・低消費電力化を進めています。

CPOとは何か

もうひとつのキーワードが「CPO(Co-Packaged Optics)」です。日本語では「共同パッケージ光学」などと訳されることがあり、ASICなどの電子回路と、光信号をやり取りする「光エンジン」を、同一パッケージのすぐ近くに統合して実装する技術のことを指します。

イメージとしては、これまでは「処理をするASIC」と「光に変換する部品(光トランシーバ)」が、基板の上で離れた場所(数十cm単位)に別々に取り付けられていました。この間をつなぐ電気配線が長くなるほど、信号が弱くなったり、消費電力が増えたりしてしまいます。CPOでは、この光トランシーバに相当する部品をASICのすぐ隣(数mm〜数cm単位)まで近づけて一体化することで、電気で運ぶ距離を大幅に短くします。実際、NTTの光電融合スイッチの事例では、この距離を従来の300mm程度から30mm程度へ、約10分の1に縮められるとされています。

配線が短くなればなるほど、信号のロスや消費電力のムダが減り、より高速な通信を省電力で実現しやすくなる、というのがCPOの狙いだと理解しています。高速化が進むほど、電気で運ぶ区間をできるだけ短くして、早い段階で光に変換してしまうことが重要になっていく、という文脈で登場する技術です。

なお、シリコンフォトニクスとCPOは別々の概念ですが、実際には「シリコンフォトニクスの技術で作った光の部品を、CPOという実装方式でASICのすぐそばに配置する」という形で、セットで語られることが多いようです。

NTTのIOWN構想と光電融合の進化ロードマップ

日本で光電融合というと、まず名前が挙がるのがNTTの「IOWN(アイオン)」構想です。IOWNは光電融合だけを意味するものではなく、ネットワーク全体を光化する「APN(All-Photonics Network)」、コンピューター内部回路をできるだけ光でつなぐデバイス技術「PEC(光電融合)」、AI時代の計算基盤をハード・ソフト両面から最適化する「AICP」という3つの要素で構成されています。

NTTが公表している目標値としては、伝送容量125倍・電力効率100倍・遅延200分の1という数字が挙げられており、光をネットワークからサーバー間、ボード間、チップ間、そして将来的にはチップ内部へと段階的に近づけていく構想とされています。具体的には、ボード接続用の光電融合デバイス(PEC-2)が2025年度以降、チップ間接続(PEC-3)が2028年度以降、チップ内の光化(PEC-4)が2032年度以降と、世代ごとに商用化の目標時期が示されています。ただし、これはIOWN全体としての長期目標であり、現時点の商用化はまだ「サーバーやスイッチのボード間接続」の段階にとどまる、という点は押さえておいたほうがよさそうです。

2026年に入ってからの動きとしては、NTTが光電融合スイッチ(PEC-2)について、米Broadcomのスイッチ用ASIC、台湾Acctonのパッケージング、新光電気工業の基板製造といったパートナーとの協業体制を固め、通信容量102.4Tbps・スイッチ単体で消費電力50%削減という具体的なスペックを示したうえで、2026年度中の商用サンプル提供を目指すと発表しています。研究段階のテーマから、実際のAIインフラ製品へと移行しつつある段階といえそうです。

光電融合をめぐる主なプレイヤー

ここからは技術面というより、どんな企業がこの分野に関わっているかを整理してみます。繰り返しになりますが、以下は技術動向の紹介であり、特定銘柄への投資を勧める内容ではありません。

NTTは、IOWN構想全体を主導する立場で、光電融合デバイス・シリコンフォトニクス・CPO・APNなど幅広い領域に取り組んでいます。2026年6月には、IOWNのエコシステムをグローバルに広げる目的で「IOWN AI Fund」という投資ファンドの組成を発表しました。運営はNTTのほか著名投資家のYoung Sohn氏、韓国のSKグループ、台湾の中華電信、日本政策投資銀行が中心的な役割を担い、ファンド規模は約800億円を見込んでいるとされています。国内外の20社以上が出資参加に関心を示しているとされ、富士通や古河電気工業も賛同を表明しています。

NVIDIAは、AI向けGPUの世界最大級の企業であり、光電融合の需要側として非常に重要な存在です。2026年3月には、CPO技術を採用したネットワークスイッチ「Quantum-X Photonics」「Spectrum-X Photonics」を本格展開する方針を示すとともに、光デバイス大手のCoherentとLumentumにそれぞれ20億ドルを出資すると発表しました。GPUという「計算」の部分だけでなく、GPU同士を「つなぐ」部分にも本格的に投資を広げている印象です。

Broadcomは、AI向けネットワークASICとCPOの分野で存在感のある企業です。前述のNTTの光電融合スイッチでも、スイッチ用ASICの供給パートナーとして名前が挙がっています。

Corningは、光ファイバー・光通信部品で世界的に知られる企業です。光電融合が普及していくと、光エンジンだけでなく、光ファイバーやコネクティビティ、パッケージングといった周辺部材の重要性も増していくと考えられます。NTTのIOWN AI Fundにも、経営トップがコメントを寄せる形で関係が紹介されています。

富士通は、NTTと2021年に戦略的業務提携を発表して以来、ネットワーク技術の共同研究開発を続けている国内大手です。IOWN AI Fundの趣旨に賛同し、光通信×AI×コンピューティングの掛け合わせによる新たな価値創出を目指すとしています。

古河電気工業は、日本の光ファイバー・フォトニクス関連で注目される企業のひとつです。光電融合そのものというより、光ファイバーや光部品といった「光のインフラ側」を支える存在として位置づけられそうです。

企業を見るときに気をつけたいこと

光電融合は、一社の技術だけで完結するものではなく、材料・レーザー・変調器・シリコンフォトニクス・光エンジン・ASIC・先端パッケージング・CPO・光ファイバーやコネクタ・スイッチ・AIデータセンターと、非常に長いサプライチェーンにまたがる産業だと感じています。

そのため、この分野に関心を持って企業を調べる際は、その企業がサプライチェーンのどの部分の技術を持っているのか、実際に量産段階へ進んでいるのか、大手AI企業や半導体企業との関係があるのか、光電融合によって新しい売上が生まれる話なのか、それとも既存事業の延長にすぎないのか、といった視点で見ていく必要があると感じました(繰り返しになりますが、これは技術・業界の見方の整理であり、投資助言ではありません)。

光電融合の課題

期待されている技術ではありますが、課題もいくつか指摘されています。

CPOは高度な光学・電子・パッケージング技術を必要とするため量産性が問われますし、複数の光・電子部品を高密度に統合するほど歩留まりの確保も難しくなります。AI用ASICそのものが大量の熱を発生させるため、光学部品との共存や冷却も課題です。また、従来の着脱式光トランシーバと比べて、CPOでは故障時の交換・保守の考え方が変わる可能性がある点も指摘されています。省電力・高帯域化のメリットがあっても、導入コストが高ければ普及には相応の時間がかかりそうです。

まとめ:光電融合はAI半導体の裏側を支えるインフラ技術

光電融合は、「光ファイバーを使う通信技術」というだけの話ではなく、AI時代に増え続けるデータを、いかに高速・低遅延・低消費電力でコンピューターの内部まで運ぶか、という問題への回答だと私は理解しています。

電気中心だった構成が、電気と光の組み合わせへ、そして光をコンピューターのより近くへ、チップ間の光化へ、将来的にはチップ内部への光技術の適用へと、長期的な進化が段階的に進んでいます。2026年時点では、NVIDIA・Broadcom・NTTといったプレイヤーがCPOや光電融合を実際のAIインフラに組み込む動きを本格化させており、研究だけのテーマではなくなりつつある印象を受けます。

今後もAIデータセンターが巨大化していくとすれば、「GPUそのもの」だけでなく、「GPU同士をどうつなぐか」という部分が重要な技術領域になっていくのだろうと感じています。40代になり、AIやテクノロジーの話題を追いかけるのが以前より楽しく感じられるようになった今、こうした技術の裏側を少しずつ理解していくことも、これからの時代の心地よい準備のひとつなのかもしれません。


参考情報源:NTTグループ公式サイト(IOWN関連ページ・ニュースリリース)、NTT技術ジャーナル、NTT R&D Website、各種報道(クラウドWatch、Impress Watch、EE Times Japan、日経クロステック等)、NVIDIA公式ブログ・技術資料

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